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【FINDERS】重富 渚|リスクを嫌う自分が、リスクを取る理由


”正直、大変なことがたくさんあります。だけどやりたいことをやっているから、そんなことは気になりません。むしろ、今が楽しいですね。” 【FINDERS】重富 渚

学校を卒業し社会に出ると、多くの人は会社など、どこかしらの組織に所属すると思います。しかし数年経っていくうちに「自分はここで働くことが正しいのか?」と考える人は多いのではないでしょうか。

今回は、大企業と言われる鉄道会社から、当時フルタイム勤務がたった2人だった一般社団法人デザイン思考研究所へとキャリアチェンジした重富 渚さんに話を聞いてきました。

組織の規模も、業務内容も、何から何まで違う環境へ、重富さんはなぜ移ることを決めたのか。そして現在所属するデザイン思考研究所はどういう組織なのか。など話して頂いています。

あなたが、これから自分の人生に求めるものは何でしょうか?なにか参考になるものがあるかもしれません。


重富 渚
1991年生まれ。25歳。長崎県出身。2013年に慶応義塾大学卒業。ソーシャルイノベーション戦略とアントレプレナーシップを専攻し、地域活性化に3年間従事。在学中に有志でデザイン思考を学ぶ会を開催し、スタンフォード大学d.schoolでもデザイン思考を学ぶ。大学卒業後は鉄道会社へ入社。2016年に鉄道会社を退職し、一般社団法人デザイン思考研究所へ。COOを務める。デザイン思考を多くの人に学んでもらうため、ワークショップを開催したり、企業等の問題解決のためにコンサルティングを行う。

やりたいことが実現できなかった3年間


ー重富さんは大学卒業後に鉄道会社で3年間勤めています。どのような職務を経験したのですか?

重富:入社してすぐは福岡へ配属になりました。駅員として改札業務を約9ヶ月程度経験し、その後、車掌の見習いをやっていました。その後は地元の長崎に移り、長崎エリアのコーポレート部門の業務を経験しました。

ーその鉄道会社に入社しようと思った理由はなんだったのですか?

その会社へ入りたかったのは、学生時代にソーシャルイノベーション戦略とアントレプレナーシップを専攻し、地域活性化に取り組んでいた経験が主な理由です。地域活性化に学生の間の3年間取り組むなかで「地域の人が自然に集い、地域を元気にする活動が自発的に行われる場所(駅)をつくりたい。」という想いがあったからです。駅舎そのもののコンセプト設計などから関わってみたいと考えていました。

自分で考えて、動いて、という仕事がしたかったのかもしれません。しかし大企業では、若いうちは自分で考えて新しいことをやるよりは、まずは既存の仕事を決められた手順通りにこなすばかりでした。それは教育がしっかりしていて、会社のことを隅々まで理解することができて、とても良いと思うのですが、当時の自分には物足りなく感じ、やりたいことをやるまでに時間が掛かりすぎると思いました。

ー聞こえは良くないかもしれないですが、お堅い雰囲気を感じてしまったと。

昔からある企業ですので、確かに入社してから体質が堅いイメージを持っていました。長崎へ異動となってからはコーポレート部門に関われたので「ここでは何かできるのではないか。」と思いました。そこで課長クラスが集まる会議のやり方を変えるなどの提案をしていました。自分の力不足な点も十分ありますが、なかなか定着しない、受け入れられないことがありました。

ーそういった変化を取り入れにくい雰囲気や、人数が多い大企業だから大きな仕事のある一部の仕事に追われる、というところが退職を決めた理由ですか?

理由の1つではあります。しかしそれよりも決定的な理由としては、学生時代にソーシャルイノベーションやアントレプレナーシップ、課外活動としてデザイン思考というクリエイティブな発想法を学んでいたのに、たったの3年間で形式的な思考法になりつつある自分に気付いたからです。

また身勝手ではあるのですが、1日の大半の時間を費やす仕事なので「自分がやりたいことを自由にやりたい」と思い、諦められなかったことが退職の理由です。

デザイン思考研究所へ


ー退職を決めたあとは、すぐにデザイン思考研究所へジョインすることは決まっていたんですか?

いえ、始めは普通に転職活動をしていました。転職サイトに登録して、という感じですね。選択肢としては、規模が小さい企業が多かったです。やはり大企業を経験して裁量がお大きいところで働いてみたいと感じていたので。

その時も「地域の人が自然に集い、地域を元気にする活動が自発的に行われる駅舎をつくりたい」という想いが、まだありました。転職サイトに載っていないような設計事務所などにもメールを送ったりしました。でも設計の知識やスキルがないので、返信は来ませんでしたけど(笑)

ーデザイン思考研究所のホームページを見て、気になっていたことがあります。重富さんは共同創業者として紹介されていますが、デザイン思考研究所が法人化したときは、まだ前の会社に勤めていますよね?

デザイン思考研究所の前身は「デザイン思考研究会」というもので、私が大学生のときに設立されています。その後、私が社会に出てから法人化しました。

「デザイン思考研究会」を立ち上げたときに関わっており、かつ法人化の際も遠隔で相談を受けていたので、共同創業者ということになっています。

ーなるほど。ではどういう経緯でデザイン思考研究所に戻ることになったのですか?

代表の柏野が、私が転職活動をしていることを知って、声をかけてもらいました。転職活動を始めた頃から、デザイン思考研究所のことも考えていました。デザイン思考のマインドセットは、いかなる業種にも重要だと感じていたので、もっと専門的にデザイン思考をやってみたいと思っていました。だけど2年のブランクがあったので「戻るのは無理かな」とも思っていました。声をかけてもらって、とてもありがたかったです。

デザイン思考研究所は、私が入る以前はフルタイムで勤務しているのは代表を含め2人しかいませんでした。ですので自分の役割がとても大きくなります。また企業などの問題解決のお手伝いをするという仕事は、ルーティンワークでは絶対にできないです。そういう点から私が求めていた環境がありました。

デザイン思考研究所 HPより

デザイン思考とは。デザイン思考研究所とは。


ー現在所属されているデザイン思考研究所について聞かせてください。まず「デザイン」という言葉を聞くと、デザイナーなどの仕事が思い浮かんでしまいます。実際にはどういうことを行っている組織になるんでしょうか。

確かに「デザイン」と聞くと絵や柄などを決めるような印象を持ってしまいますね。デザインには「現状をよりよくする」という、もう1つの意味があります。私たちの研究所が取り組んでいる「デザイン思考」の「デザイン」とは「現状をよりよくする」方の意味です。

私たちの研究所では、デザイン思考は「人の幸福や社会の繁栄を目的に人間中心でイノベーションを実現させる問題発見問題解決」と定義しています。このデザイン思考を多くの人に学んでもらうためワークショップを開催したり、ビジネスなどの実戦で問題解決の手助けをするためコンサルティングを請け負ったりしています。

ーデザイン思考研究所は、すでに企業、大学、団体と多くの組織と取引実績があります。まだ若い組織ですし、人数も少ないなか、どのようにしてここまで取引を増やしていけたのですか?

ワークショップを開催していくなかで、口コミで広がっていったのが大きいです。ワークショップに参加された方が、学んだことなどを会社で話してくださり、そこから会社の研修として利用して頂いたり、コンサルティングの依頼をして頂いています。

また反響がとても大きかったのが、ホームページで公開している無料学習コンテンツです。スタンフォード大学のデザイン思考に関する教材を翻訳しているのですが、現在約11万件ダウンロードして頂いています。このコンテンツから、興味を持ってもらうことも多いです。

ーFacebookページに1万を超える「いいね!」がついていることからもデザイン思考研究所に多くの人が興味を持っているのが分かります。ワークショップには、どのような人が参加していますか?

現在は本当に色んな方に参加して頂いています。職種でいうと、大企業の管理職の方、リーダー職の方、中小企業の経営者、大学の教授、研究者、弁護士…。様々ですね。当初はベンチャー企業に所属している方の参加が多いと考えていましたが、意外と大手企業からの参加が多くなっています。参加されている方を見ると、イノベーションを起こさないといけないという危機感を持たれているのだな、と思います。

ーデザイン思考研究所は一般社団法人です。なぜ株式会社にしなかったのでしょうか?

デザイン思考研究所の目的は利益追求ではありません。日本にまだ浸透していない「デザイン思考」を広めることです。

そして、その先に「学校をつくりたい」という目標があります。学校の場合だと、株式会社では馴染まないと思ったので一般社団法人としました。

ーデザイン思考を教える学校ということですか?

デザイン思考だけでなく、様々な学問を学べる学校にしたいと考えています。要するに大学ですね。

もともとデザイン思考研究所は、大学生だった私たちがデザイン思考を「学ぶ」ために立ち上げたものです。そして今はワークショップなどで「教える」こともしています。学校というのは、その延長線上にあると思っています。

リスクを取る理由


ー現在は重富さんを含めフルタイムで参加しているのは3人ですね。かなり忙しい毎日なんじゃないですか?

忙しいです。一応、3人のなかでそれぞれ役割はあるものの、何でもやらないといけない状況です。

ーコンサルティングを行っていると、毎日違う課題と直面すると思います。それを解決していくために知識のインプットも必要になると思いますが、どのように時間をつくっているのでしょうか。

「仕事をやりがら勉強」といった感じです。勉強だけに時間をとることを難しいです。ただインプットは必要なので、本は常に持ち歩いています。

しかし本も熟読する時間はありません。フォトリーディングの要領で読みます。概要を頭に入れて、気になる所があれば、その部分はしっかり読み込みます。

問題解決のために新規事業を行うなど、新たなことをやっていくという選択が出てくることもあります。そうなると、あまり知識がないことに直面することもあります。必要な知識や情報があれば、その都度調べています。

最近では外国からの仕事の依頼もあります。日本語だけでは対応できません。語学の勉強もしていかなければならないと思っています。

常に本を持ち歩いているとのこと。 書き込みなどもされていました。

ーデザイン思考研究所はメンバーを増やす予定はありますか?

学校をつくる、という目標のためにもメンバーは増やしていきたいと思っています。だけど適当には増やすことはできません。人が増えると、それだけコミュニケーションを多くとらないといけなくなります。ですのでデザイン思考に興味があるのはもちろんですが、自分たちと雰囲気があうことも大事です。

ー今のメンバーはどういった雰囲気を持っているんですか?

私たちは非常に勉強熱心です。成長意欲が高く、またチームが成長することにも喜びを感じます。そのため、これまで私たちのワークショップに参加してくださった方が、各自の会社でデザイン思考を普及させようと奮闘していたり、各自でスキルアップしようとされていると応援したくなります。そのような勉強熱心な方が、より勉強できる場を私たちはつくりたいと考えています。そういうこともあってか、今のメンバーは温かい、優しい奮起を持っていると思います。

ー問題解決に立ち向かうチャレンジ精神も持っていそうですね。最後に、重富さんはキャリアチェンジについてどう考えていますか?

自分が本当にやりたいことがあれば、それに挑戦していくほうが良いと思います。よく小学生の将来なりたい職業で公務員や会社員が上位にきている、などという話を聞きます。公務員や会社員が悪いということではありませんが、「安定だから」という理由で憧れる子どももいるようです。残念ながら、この時代にどの職業が安定かなんてないと思います。どの業界も安定でないとなったときに、重要になるのは「何がやりたいか」、「何だったらどんなに辛くても続けられるか」だと思います。

やりたいことのためにリスクをとることもあるかと思います。私は実はリスクは大嫌いで、できれば避けたいと考えています。しかし、リスクを避けてばかりでは、やりたいことができないときがあります。

私は転職時に「何がリスクなのか」そして「どこまでのリスクなら許容できるのか」という2つを自問自答して、転職することを決意しました。リスクを取るには、許容できるリスクかどうかの判断が重要です。後に後悔しないようにも、許容できるリスクは積極的にとって、自分の可能性を広げ、チャレンジしたほうが楽しいと思います。

前職と比べると働いている時間も負担も責任も多いかもしれません。正直、大変なことがたくさんあります。だけどやりたいことをやっているから、そんなことは気になりません。むしろ今が楽しいですね。



FINDERS あとがき

重富さんの最後の回答は、考えさせられるものがありました。「何がやりたいか」が大事。そしてやりたいことにあるリスクが「許容できるリスク」なら積極的にとった方が楽しくなる。この考え方はキャリアチェンジに限らず、普段の仕事をしているときにも大事な考えかもしれません。

重富さんは本当に多忙なようで、このインタビュー後も颯爽と次の仕事へ向かっていました。だけど、そこに疲れなどは感じられません。また新しい挑戦に目を輝かせているのが、とても印象的でした。

[取材 ・記事:筒井 誠]
[撮影:野田 恵佑]

関連HP
デザイン思考研究所

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