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児玉教授のメッセージ

東京で児玉龍彦東大教授の記者会見が開かれたので出席した。
会見で児玉氏が問題にしたのは、
住民の信頼が失われたまま、
効果の期待できない「除染」が既成事実化していく現状である。

(高圧洗浄を中心とした、放射性物質の隔離を伴わない「除染」を
 児玉氏は「安かろう悪かろう除染」と表現している。)

特に従来から高速増殖炉「もんじゅ」の開発等に携わるなど
所謂「原子力ムラ」の一員である特殊法人・原子力研究開発機構が、
プレーヤー兼ジャッジメントとして
全面的に「除染」に関わっていることを児玉氏は問題視している。
確かに、国(環境省)は
除染の遂行を原子力研究開発機構に丸投げしている感を否めない。
環境省が原子力に対して何のノウハウも持っていないからだが、
原子力研究開発機構にしても除染の経験が豊富とは言えないだろう。
ひとつの結果として、
今月中に始まる国のモデル除染は、
原子力研究開発機構のジャッジメントによって、
鹿島建設、大林組、大成建設という
多くの原発の建設に当たってきた「原子力ムラ」企業に委託された。
児玉氏のもとには事前に談合を指摘する情報が寄せられていて、
入札結果は果たしてその通りだったと氏は“告発”する。
結果が事前に判っていたという声はぼく自身も耳にしており、
原子力研究開発機構が選考過程を明らかにしていないこともあって、
不明朗な印象は拭えない。
(今後、情報の公開を求めていく必要がある。)

今回の記者会見の特徴は、
児玉氏が法律上の問題にまで大きく踏み込んだことである。
原子力災害特別措置法は
「原子力災害に対する対策の強化」を規定しているにも拘らず、
3.11以降、国が行なってきたことは、
事故の現実を追認しての「規制緩和」に終始したと氏は指摘する。
一般人の被曝限度を年間1mSvから20mSvに緩和するなどは
「対策の強化」どころか「対策の弱化」に他ならない、
こうした国の政策は法律に違反しているというのである。
政府の原則なき現実追認が国民の不信感を増幅したことは、
ぼくもブログやTwitterで繰り返し述べてきたことである。

児玉氏が避難と除染は住民自身が選択すべきだと考えていることは、
氏を取材してきたぼくには自明のことだったし、
当初から身近にいた南相馬市の職員は繰り返し聞いている話だ。
先日のブログで全く違う受けとめ方をしていた人がいることを知り、
驚いたというのが正直なところである。
その「誤解」を意識してのことではないだろうが、
きょうの記者会見で児玉氏は基準にすべき数値を明言した。

原発事故以前の被曝限界は、
放射線障害防止法に基づく平成12年の科学技術庁長官告示、
「妊娠中の女性については内部被曝年間1mSv以下」
「妊娠可能な女性の腹部については年間2mSv以下」である。
「この数字は事業者が従業員に対して課せられた義務なので、
 一般住民はさらに厳しくあるべき」と氏はいう。
以下に、氏が配布した資料の関連部分の表現をそのまま引用する。

「これらの数値から判断すると、
 1ミリシーベルト以上の被曝をうける可能性のある住民の
 避難と除染は、政府と東電の補償でおこなうべきである。
 特に、2ミリシーベルト以上は、基本的に絶対補償されるべきである」

きょうの記者会見には、
いままで児玉氏が主張してきたことを
根拠とともに改めて明らかにしたという意味がある。
氏の医師としての見解も公にされていて、
放射線による遺伝子破壊に関する最新の研究成果からして、
「何ミリシーベルト以下なら健康被害は発生しない」という
「しきい値」は存在しないと明言している。
そのうえで、
「100ミリで0.5%がん死亡が増える」という研究を引用し、
年間20ミリシーベルトの放射線量に晒されれば
がん死亡率は国民全体で0.1%増加、
一年に340人が新たにがんで亡くなるとの推計を明らかにした。
この数字を高いと見るか低いと見るかは人それぞれだろうが、
児玉氏は「公衆衛生上では許容される健康被害ではない」とした。

きょうの記者会見は、
福島原発事故後の放射線問題に対する
多少混乱も見られる言論状況を「仕切り直す」意味を持つと思う。
ぼく自身も大変勉強になった。



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