人海戦術
きょうは自衛隊による飯舘村役場の除染を撮影した。
飯舘村は全村が計画的避難区域に指定されており、
村民のほぼ全員がいまも避難生活を送っている。
人通りも絶えた町を
防護服姿の人たちが行き来している様子はSF映画のようだ。
作業にかかっている隊員の数が多いことに驚く。
福島に駐屯する第6師団の災害派遣部隊で、
毎日300人が除染に従事しているという。
まさに人海戦術である。
7日に作業を開始して、
芝生をはぎ取り、コンクリート面は高圧洗浄を行い、
側溝の汚泥をすくい取るなどの作業が今日でほぼ終わった。
明日からは、
側溝の水の浄化(泥に付着したセシウムを沈殿分離する)や
放射線量がまだ高い場所の再洗浄を行う予定だという。
役場の前には空間線量が電光表示されているが、
先日ぼくらが訪れたときには毎時2.7〜2.8μSvだった。
それが今日は1.6μSv台まで下がってきている。
除染が一定の効果を発揮しているのは間違いないだろう。
ただし、この数字ではまだ、
子どもたちが安心して暮らせるところまでいかない。
年明けから除染特措法が施行される。
実際の除染が始まるのは3月にずれ込みそうな雲行きだが、
民間企業に委託しての「本格除染」が始まるわけだ。
そこで除染のコストを試算してみる。
除染に当たった自衛隊員の日当を仮に1日1万円としよう。
(実際には復興特需で建設作業員の日当は跳ね上がっている)
飯舘村役場の除染に300人が7日間フル稼働したわけだから、
コストは人件費だけで2100万円ということになる。
それだけの資金を投じて、
なお「安心して住める」ところまでいかないのである。
先週、福島県は、
市町村が行う年間20mSv以下の地域の除染について
費用を財政措置する交付金の算定基準を明らかにした。
それによると敷地400㎡以下の民家の場合、
除染費用の上限は外壁の洗浄をした場合で70万円。
外壁を洗ってもあまり線量は下がらないと言われているので、
それを行わなければ60万円(平米単価1500円)である。
この費用で除染ができるのは、
放射線量が1μSv/h程度の地域、
それも街場のそれほど広くない家に限られるのではないか。
例えば南相馬市の場合、
山あいの地域の放射線量は飯舘村役場と変わらない。
この地域の民家はほとんどが農家で
敷地面積は役場ほどではないにせよ広く、
土を剥がなければならない面積も広大である。
そして、セシウムが付着した森や屋敷林が
家のすぐ裏にまで迫ってきている。
除染作業はむしろ役場より厄介なはずだ。
役場の除染に2000万円以上かかったとすれば、
60万や70万というのはおよそ非現実的な数字だろう。
除染の平米単価が1500円というが、
南相馬の小学校などのケースをみると
表土を剥いで客土する費用だけで平米1800円だから、
これが如何に「けちった」金額であるかは明らかである。
また、自衛隊の人海戦術による除染を見ていて思うのは、
先日もこのブログに書いたが、
一日百軒の除染を行うという計画の無謀さである。
資金面でも労働力の面でも、
「除染」は始まる前からすでに破綻しているといえるだろう。
費用をけちったがために除染効果が現れず、
巨額の国費をドブに捨てる結果になることをぼくは危惧する。
冷静に考えれば勝ち目のない戦に
誰もブレーキをかけられないまま突入して、
案の定負け戦になるのではあまりに進歩のない話である。
…こう書いたからといって、
ぼくは除染そのものに反対しているわけではない。
国土の狭い日本の現実を考えれば、
福島県民の全面移住など非現実的な話で、
なんとか効果的な除染をして
住民が安心して暮らせるようにするしかないと考えている。
それには思い切った費用をかけることが必要で、
そのうえでなお除染しきれない高線量の地域については、
住民に陳謝して、移住と組み合わせていくしかないと思う。
「除染」への過大な期待と、
うらはらにセコすぎる財政措置…
場当たり的な施策をこれ以上繰り返している暇はない。
そろそろ現実的な「落とし所」を探る時期なのではないか。
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