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いわゆる「人間動物園」について

過日放送されたNHKスペシャル
「ジャパン・デビュー アジアの“一等国”」について、
内容が「偏向」しており精神的な苦痛を受けたとして、

8389人がNHKに対して損害賠償を求めて訴訟を起こした。
ぼくはこの番組には全く関わっておらず、
訴訟そのものは「どーでもいい」ことなのだが
(てなことを言ってちゃいけないのかもしれないが…笑)、
訴訟で
「台湾人に対する差別をことさら助長する」(大意)
として取り上げられた「人間動物園」については、
ぼく自身、
仕事のうえで
ある程度の関わりを持っているので言及しておきたい。

渦中の番組で取り上げられたのは1910年の「日英博覧会」だが、
ぼくはその6年前に開かれた
「セントルイス万博」における「人間動物園」を取材している。
1996年に放送したETV特集「アイヌ 太平洋を渡る」である。
取材するなかで
「人間動物園」という言葉を確かに目にした記憶があったので、
きょうVTRを引っ張り出して確認してみたら
「生きた人間博物館」と言い替えていた(笑)。
きっと「人間動物園」ではあまりにも刺激的すぎる、
と柄にもなく“配慮”したのだろう。
しかし、どう表現したところで基本的には同じことであり、
「人間動物園」と言ったにせよ、言わなかったにせよ、
これが極めて差別的な性格のものであることは間違いない。

所謂「人間動物園」は、20世紀初頭、
欧米の「先進国」諸国で大変に人気を呼んでいた催し物である。
基本にはダーウィンの進化論の“拡大解釈”があって、
当時、
植民地を経営していた国の国民(=白人)を「進化した民族」、
植民地化された地域の
先住民族(当時そういう概念はなかった)を「劣等民族」と捉え、
そうした「劣等民族」を一堂に集めて“展示”することで、
「人類の進化」の軌跡をたどろうというものだった。
ぼくが取材したセントルイス万博では、
北アメリカ先住民(いわゆる「インディアン」)の諸部族や
南アメリカ最南端地域の
先住民族であるパタゴニア・ジャイアンツ、
ピグミーだかの(記憶が不鮮明なのだが…)アフリカの原住民、

それにアイヌなどが会場に“展示”されていた。

“展示”された民族は、
博覧会場の一角に
独自様式の家(アイヌなら茅葺きの「チセ」)を建て、
そこで観客の好奇の目に晒されながら数ヶ月間を過ごした。
ホテルに宿泊しながら「出番」だけ会場に現れたのとはわけが違う。
訴訟の原告たちの意見によれば
「人間動物園」ではなく「出演」だったというのだが、
これが現代的な意味でいう「出演」とは
全く違うものであることは言うまでもないだろう。

明治の末の日本は「一等国」の仲間入りをするために必死だった。
当時の「一等国」とは、
植民地国家、言い替えれば「帝国主義国家」のことである。
「脱亜入欧」という言葉が国家意思を体現していた時代である。
西欧列強と同じような「進化した民族」の一員になるために、
「土人」と呼んでいたアイヌ、
「生蕃」(これ自体が差別語だ)と呼び称した台湾先住民を
差別する側に身を置こうとしたのは明らかである。
自らの民族の歴史に誇りを持つということは、
そうした「歴史的事実」から
目を背けることとは違うだろうと思う。


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