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午後の飛行機で東京に帰ってきた。
東京は酷く蒸し暑く、
不快指数の高さにうんざりする。
夜、荻窪駅近くの居酒屋「久」で
かみさんと待ち合わせる。
遅くまで仕事をしていたかみさんが、
「お寿司を食べたい気分」だというのである。
「久」は居酒屋だが、寿司がなかなか旨い。
もともと奥さんの父親が
寿司屋をやっていたところに開いた店だそうで、
そうしたDNAがどこかで関係しているのかも…。

ちょうどコハダの幼魚、シンコの季節である。
江戸前のものはまだこれからだろうが、
「久」では天草産のシンコを入れていた。
本当の赤ん坊で、なんと「四枚づけ」(一貫をシンコ四匹で握る)である。
食べるのが可哀想なようなものだ。
この店のコハダは酢を使わず塩で〆ていて、九段の「政寿司」などと同じスタイルだ。
たぶん東京には昔からこういう仕事の仕方もあったのだろう。
それを30代の若い主人がやっているのが面白い。
(主は岐阜県出身。京大を中退し上智の理工学部で数学を学んでから料理人になったという変わり種だ。)
シンコの味はなんとも淡すぎたが、
ぼくにとってシンコを食べるのは「季節感を食べる」ことであり、縁起かつぎのようなものである。
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