といっても、実際にボランティアを行なったのは鍼灸師をしている妻で、
ぼくはマネージャー兼雑用係というところである。
被災後、何かと不自由な生活のなかで体調を崩してしまう、
そこまでいかなくても重い疲労を溜め込んでいるお年寄りは少なくない。
少しでもそうした人たちのお役に立てればというので、
高齢者を中心に13人の患者さんに鍼治療を行った。
もともとは市立田老診療所で
黒田仁医師の診療風景を撮影していたのがきっかけである。
患者さんが比較的少ないとき、先生はお年寄りの求めに応じて鍼を打つ。
驚くぼくに、先生は、
鍼灸を正式に習ったことはないが、
鍼を打つと患者さんが楽になったと喜ぶので続けていると話してくれた。
そこで、妻が鍼治療のボランティアで田老にうかがい、
先生に鍼灸についてのアドバイスをするという話がとんとん拍子に決まった。
もっとも、妻によれば、
見よう見まねといいながら先生の技術はしっかりしていて、
いまさら教えることなど何もなかったという話ではあったが…。
当初は少しでも多くの患者さんを診るために、
一人当たりの治療時間を15分としてスケジュールを立てた。
ところが、思いのほか症状の重い患者さんが続いた。
黒田先生によれば、
畑仕事や浜仕事が忙しく、都会の人とは体の動かし方が違うという。
妻も「東京だったら超重症の患者さんばかり」と驚いている。
症状が重いため、妻は少しでも楽になってもらおうと必死である。
どうしても施術時間が長引いてしまう。
一人20分を優に超えて、
このままでは積み残しが出るのではないかと横でぼくはハラハラする。
帰りのバスの時刻ぎりぎりで、
どうにか今日予定していた全員の治療を終えることができた。
曲がらない膝が曲がるようになったと喜ぶお婆さん、
帰りには見違えるほど腰が伸びていたお爺さん、
お金を出すからまた来てほしいと懇願される方もいた。
何かと辛い思いをしている方々に大変喜んでいただいて、
妻はもちろん、コーディネートしたぼくも来た甲斐があったと思った。
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