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「年間20mSv」をめぐる憂鬱

昨夜、相馬市で行われた
「避難指示区域見直しに係る懇談会」を取材した。
計画的避難区域に指定され、
全村避難を行なっている
飯舘村の人たちを対象に行なわれたものだ。
そのなかで気になることがあった。
「放射線量がどれくらいになったら帰れるのか、
(年間)5mSvか1mSvか」という住民の質問に対し、
説明役として出席していた
国の原子力災害現地対策本部の担当者が、
「年間20mSvです。
20mSvでは健康被害のリスクは大きくありません」と
明言したのである。

これは、ぼくも何度か書いてきた、
「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキングG」の
昨年12月の報告書を踏まえての発言である。

http://toriiyoshiki.blogspot.jp/2011/12/blog-post.html
http://toriiyoshiki.blogspot.jp/2011/12/blog-post_29.html

国では2月付けで、
福島県民向けのパンフレット
「健康への影響とこれからの取組み」を発行。
そのなかで、
「低線量被ばくのリスク管理WG」の報告を引きながら、
「喫煙の発がんリスクは1000〜2000ミリシーベルト相当」
「肥満は200〜500ミリシーベルト相当」
「野菜不足は100〜200ミリシーベルト相当」などと書き、
低線量被ばくの安全性を強調、
福島県民の「啓発」に当たっている。

ぼくは昨年12月29日のブログで次のように書いた。

この報告が、近い将来、
除染や移住の範囲を最低限に抑える
「免罪符」として使われることをぼくは危惧している。
「年間20mSvでは健康に危険はない」のなら、
「除染」も「移住」も
一部の地域を除けば本来必要がないことになるからだ。
そうなれば、
現在、避難している被災者が、
それほど放射線量が下がっていなくとも
除染の終了を理由に帰宅を迫られることになりかねない。

…危惧は現実のものになりつつある。
この1月から施行されている
「放射性物質汚染対処特措法」では、
「放射線量の半減」を当面の目標に謳っているはずだが、
国はまるで口を拭ったように
「年間20mSv」で線を引こうという動きを見せている。

20mSvのリスクを科学的に判断する力はぼくにはないが、
少なくとも、
いまなお若年層を中心に
2万人以上が避難生活を続けている、
南相馬市の人たちの意識と乖離していることは指摘できる。
(南相馬市の市域の大部分は年間20mSv以下だ。)
いくら「安全性」を強調したところで、
それで彼らが帰ってくることはまず考えられない。
街は衰退していくばかりである。

南相馬市の原町区など
旧「緊急時避難準備区域」から避難している人たちには、
毎月1人10万円の「慰謝料」が支払われているが、
国は8月を目処に打ち切る方針を明らかにしている。
「兵糧攻め」で避難者の帰還を促そうという動きは、
今後ますます強まってくるのではないか。
一方で、昨日書いたように、除染はさっぱり進まない。
住民のあいだには
ある種の諦めが色濃くなっているよう思える。
どこか憂鬱な空気が街を覆っているようにも感じる。

原発を推進してきた国が
いまになって「年間20mSv」の安全性を強調することは、
他人の庭にゴミをぶちまけておいて、
撤去を要求する住民に
「このゴミは安全だからガマンして暮らしなさい」
というのに等しい。
常識から云って許される話ではない。
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