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取材でしばらく腰を落ち着けることになる街では、
まず「いい居酒屋」を探すのがならいである。
神戸は飲み屋を探して歩くのが愉しい街だ。

ぼくは専ら自分の足で探し当てるタイプの酒飲みだが、
最近はインターネットであたりをつけることも多い。
近道を行こうとするのは
酒飲みとして堕落だと反省しているが、
楽なのでつい「食べログ」あたりを見てしまう。
今回ネットで見つけたのが、
生田神社にほど近い「酒糀家」(さかや、と読む)。
秋田の「太平山」を中心に、
どこにでもある有名銘柄とは
ちょっと毛色の違う地酒を揃えているのがいい。
日本酒に合わせる肴も旨い。
はぎの肝和えや鯛、鮃の昆布〆など
気の利いた「あて」が揃っていて嬉しくなる。
料理の量は控えめで、あくまでも酒を楽しむ店だ。

そして、先日も書いた長田の「吟醸」。
ここは太田和彦さんの「居酒屋味酒覧」で知った。

自分で歩いて見つけた店としては、
東急ハンズの向かいのビルの4階に「哲也」がある。
表の通りに出ている品書きが
「だし巻き玉子」や「ぬた」「たきあわせ」など、
まるで衒いがないのがかえって気になったのである。
それに対して、
西宮市内でのみ販売の「宮水の郷」(白鷹酒造)など
地酒のラインアップはひねりが利いている。
なんとなく「ただ者ではない」感があって覗いてみた。
カウンターが数席と個室がひとつの小さな店だが、
驚いたのは主が若い人だったこと。
まだ二十代ではなかろうか。
いずれきちんとした料理店で修業した人に違いなく、
一皿一皿きちんと手をかけた端正な料理を出す。
だし巻き玉子、ぬた、野菜のたきあわせ、どれも旨い。
さらには品書きの筆頭にある「胡麻豆腐」も美味。
ここでは料理が主役、酒は脇役だ。

この「哲也」など典型的だが、
関西の店に共通して言えるのは
「だし」で勝負をしているところで、
「だし巻き」や「たきあわせ」など普通の料理に、
滋味溢るる深い味わいがある。
このあたりは東京が逆立ちしたって敵わない。
この三軒に加えて、
以前来たときに歩いて見つけたのが、
「酒糀家」の並びにある「天之美禄」という店。
ここも日本酒の揃えがよく、料理もいい。
自分好みの店が四軒くらいあれば、
一週間くらいの出張ならまず困らずにすむ。
神戸はバーもよさそうな店がたくさんあるが、
懐具合が秋の風なので今回はパス…。

取材(何の?…w)を終えて仙台に帰ってくると、
冬の風が吹いていた。


来週は大腸の精密検査を受けるので、
明日から二日ほどは酒が飲めない。
せめて今夜は旨いものを食べようと思って、
この秋初めてコートを着込んで文化横丁まで歩く。
小判寿司」を覗いたのだがあいにく満席。
しかし、がっかりするには及ばない。
すぐ向かいに仙台の誇る名居酒屋「源氏」がある。

太田和彦さんの本に
「日本三大居酒屋」というのがあったはずだ。
東京月島の「岸田屋」に大阪阿倍野の「明治屋」、
この二軒は間違いないとして、
残りの一軒がどこだったのか記憶していない。
ぼくが勝手に選ぶとすれば、この「源氏」である。
ここより旨い料理を出す店はいくらもあるだろうし、
酒の揃えが特にいいわけでもない。
しかし、
飲ん兵衛たちとともに時を重ねた店だけが持つ、
居酒屋としての風格がこの店にはある。
以前にも書いた時代のついた燗つけ器を眺めながら
カウンターの片隅で独り酒を舐めていると、
自分が酒飲みであることの幸せを
しみじみと噛みしめることができる。

なんともイイ気分になってもう一軒行きたくなり、
最近特に気に入っている「ニコル」まで歩く。
この店は料理に一工夫あって、
日本酒もいいが、
毎日変えてくるグラスワインがどれも旨い。
ところが、残念ながらこちらも満員札止めである。
まったく仙台のヤツらときたら
酒ばっかり飲んでるんじゃないぞと悪態をつきながら、
Count」に移動して
古いJazzを聴きながらウィスキーを飲んだ。


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