モン・サン・ミッシェルやレンヌでは
ぼくの趣味につきあって一緒に歩いてくれた妻も、
パリに戻ってきた瞬間に豹変して
買物好きの本性が現れる。
実際には買わなくてもいいから
ブランドショップを覗くべきだと主張する。
ぼくには時間の無駄としか思えないのだが…。
ホテルから歩いて10分ほどのところ、
オペラ座の南側に
エルメスなど超有名ブランドが軒を連ねた一角がある。
彼女にとってパリとは、
煎じ詰めればこの一角のことであるらしい。
ここでたっぷりと
時間をとってやらなければ機嫌が悪くなる。
エルメスの本店に入ると馬の鞍が飾ってあって、
もともとは馬具屋だったのが見てとれる。
なんだ、ありがたがってるけど、
北海道のSOMESと一緒じゃねえか(爆)。
経済力を素直に反映して、
いまやほとんどの店に中国語ができる店員がいるようだ。
日本語ができる店員もいるにはいるが、
東洋人の顔を見つけて近づくと大概は中国系である。
母国語で不自由なく買物ができるので
妻は俄然生き生きとしてくる。
英語もフランス語も中国語もできないぼくは
無用の長物と成り果てる。
それにしても、バリの物価は高い。
アベノミクスの円安なので、
割高感に一層拍車がかかっている。
手軽に昼食をすませようとカフェに入ると、
サンドウィッチが14ユーロ、
それに飲み物が6ユーロくらいする。
サンドウィッチはうんざりするほど量があって、
そのうえ
ボテトチップスが山と盛られていたりするのだが…。
いま1ユーロは日本の銀行で替えた場合で127円、
パリのホテルや両替屋だと137〜138円につく。
二人の昼食代が日本円にして5千円を超えるわけで、
ちっとも「手軽」ではなくなってしまう。
万事この調子で、お金に羽根が生えたように消えていく。
一食を一人千円以下ですませようとすれば、
店でパンを買って、
寒風にさらされながら
ベンチで食べるくらいしか手がない。
妻もさすがに呆れて、
東京で定食を食べた方がずっといいよね、と言った。
そのうえ、フランスパンというヤツは、
おいしいにはおいしいが消化が悪く、
食べすぎると胃がもたれてしょうがないのである。
夕方、
妻にはホテルに近い百貨店で買い物をさせておいて、
ぼくはセーヌ河畔に写真を撮りに出る。
パリが本当に美しいのは黄昏どき、
それも陽が沈んでなお空に青みが残る、その時間に限る。
敬愛する映画監督、
テレンス・マリックいうところのマジックアワーである。
写真を撮りながらつくづく美しい街だなと思い、
物価が高い恨みもしばし忘れる。
あまり興味のなかった
ノートルダム寺院にも足を伸ばした。
さすがに荘厳であり、圧倒される。
午後6時からのミサが始まっており、
現金は持ちあわせていなかったが、
カードが使えるだろうと人の波の後ろについていくと
入場は無料だった。
中に入ると美しい声の讃美歌が聞こえ、
縁なき衆生のぼくも思わず十字を切りたくなった。
パリでの最後の夜なので、
先日美味しかったレストラン、
Le Bouquinistesに夕食をとりに出る。
ワインを一本飲めば
二人で2万円くらいするから安くはないが、
たいして旨くもないカフェで軽く食べても
1万円は平気で飛んでいくから、
却ってコスト・パフォーマンスがいいという計算である。
先日は魚料理を食べたので
今夜は肉料理をメインにしたが、
やはり一工夫があって、美味しい。
ワインはサンテミリオンを一本頼んだ。
ワインの味など判りはしないのだが、
お約束だからテイスティングしておもむろに頷くと、
体格のいいギャルソン(給仕係)が
日本語で「いいワイン、超ヤバ」と言った。
誰だ、変な日本語を教えたのは…。
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