新長田再開発問題の本質とは何か?
21日に放送したETV特集
「“復興”はしたけれど」について、
新長田の住民を名乗る方からご批判をいただいた。
ぼくは番組の見方は
批判や否定も含め視聴者の自由だと思っているので、
基本的には「反論」は行なわないことにしている。
ただ、このブログは現在、
ぼくが想定した以上に多くの方に読んでいただいており、
すべての方が現地の状況を熟知しているわけではない。
現実とは食い違う認識が一人歩きしても困るので、
ぼくの見解を改めて書くことにしたい。
*
22日に書き込みの「匿名」さん、
まず、番組を見ていただいたこと、
このブログに感想(批判)を書いていただいたことに
心から御礼を申し上げます。
このようなご批判があるだろうことは、
番組を作るに当たって、当然、予想しておりました。
ただ、お書きいただいたなかに、
私の事実認識、
問題の本質への理解と食い違う部分がありますので、
その点についてのみ書き記させていただきます。
まず、第一点です。
商店主たちが管理費等の不払いをしていることが
管理者である新長田まちづくり会社の
対決的な姿勢を招いたとのご認識ですが、
これは因果関係が逆だと思います。
彼らは当初から不払いをしていたわけではありません。
番組でも触れたように、
管理費会計はブラックボックスになっています。
その中身を知りたいという
所有者として当然の要求に対して、
まちづくり会社が誠意のある態度を見せなかった、
さらには敵対的・威嚇的な姿勢を示した、
少なくとも商店主たちにはそう感じられたことで、
まちづくり会社への信頼感を失い、
集団訴訟が起き、その結果としての管理費不払いです。
番組もこのブログも
管理者(管理会社)批判が目的ではありませんので、
詳述は控えさせていただきますが、
会社側の対応については私も訝しく思う点があります。
一つだけ書けば、
不明朗との指摘がある管理費会計について
建物ごとにではなく店舗全体の集会で説明せよと、
商店主のみならず、
神戸市もまちづくり会社に対して求めてきました。
店舗全体に関わることですので当然の要求といえます。
そして何より、
アスタくにづかの商店主の多数+神戸市、
つまり、店舗所有者の圧倒的多数による要求なのです。
しかし、まちづくり会社は
建物ごとの説明に固執してこれを拒み、
結果として説明責任を果たしていません。
区分所有権を持つ権利者多数からの要求を、
権利者から管理を委託されているに過ぎない
管理者(管理会社)が拒絶するのですから、
これは明らかに異常な対応といわざるを得ません。
こうしたまちづくり会社の対応が、
生みの親である神戸市の不信感さえ招くに至った経緯は、
番組のなかで紹介した通りです。
こうした管理会社の対応が問題をこじらせたとはいえ、
新長田再開発問題の本質は、
「管理会社問題」ではないと私は考えています。
そして、それが私が指摘する二つ目のポイントであり、
この文章を書く気になった最大の理由でもあります。
私は「匿名」さんの次のような記述に
強い違和感を覚えざるを得ませんでした。
「複合マンションや商店街が嫌なら、
さっさと出ていけばよろしい。
神戸市の再開発政策が嫌なら、
最初から入らなければよろしい」
「匿名」さんが忘れている、
あるいは知りながら無視している最大のポイントは、
「商店主たちが被災者である」という決定的な事実です。
これが一般的な再開発であり、
商店主たちがビジネスチャンスと見て参加したのなら、
「商売人が我欲に走った結果」というご指摘は
確かに成立するかもしれません。
儲けに走って思惑が外れた人たちの言い分を、
正面から取り上げるマスコミがあるとも思いません。
しかし、彼らは「被災者」なのです。
震災で焼け出された被災者が
元の土地で商売を再開したいとの希望は当然のもので、
「復興」過程において
最大限に尊重されるべきだったと私は考えます。
しかるに神戸市は、
本来、最も大切にすべき被災者救済より、
市役所目線から見た「街づくり」を優先させました。
そのことが最大の問題点であり、
現在まで混乱が続いているそもそもの原点であることは、
番組で指摘した通りです。
神戸市が再開発を決めたのは震災後2ヶ月、
被災した商店主の多くがまだ仮設住宅にも入れず、
避難所で生活していた時期のことです。
未来の都市計画を考える余裕などあるはずもありません。
また、非常時を理由に、
法律で開催を義務づけられているはずの
公聴会も開かないままでの都市計画決定でした。
それで、住民の同意があったといえるのでしょうか?
圧倒的多数の商店主たちにとって、
気がつけば自分たちの土地(商店街)は
再開発予定地として規制の網がかけられており、
町に残ろうと思えば
再開発ビルに入居するしかありませんでした。
自分の街を愛しているがゆえに
借金をしてでも街に残ろうとした被災者の
「自己責任」を問うほどの冷酷さは私にはありません。
最後に、
「匿名」さんのご批判が
ブーメランになっていることを指摘しておきます。
「震災から7年8か月も経過してから
購入した住民にとっては、過去の問題はいい迷惑」
…お気持お察し申し上げます。同情も致します。
しかし、意地悪くいうなら、
その時点で再開発の問題点は明らかになっていました。
番組に出演していただいた広原盛明さんを始め、
「兵庫県震災復興研究センター」などから、
新長田再開発の問題点を指摘した著作が
すでに複数刊行されていました。
また、神戸市も、
開発が当初の計画規模に達しないことを認識し、
規模の縮小の動きに出ていたのも事実です。
「匿名」さん自身が
新長田に住居を購入した権利者であれば、
購入したのはあなたの自由意思だったはずです。
それは再開発に参加するか、
街を出ていくかの選択を迫られた被災商店主たちより
遙かに自由な意思による購入だったと思います。
「匿名」さんは商店主の思惑違いを厳しく責めますが、
早晩問題が顕在化するのが明らかだった時期に
そこに不動産を購入した住民には
思惑違いの「自己責任」はないのでしょうか?
もちろん、これは冗談です。
私自身がそう考えているわけではありません。
店舗所有者も、住居所有者も、
等しく権利者として尊重されるべきだと考えています。
そこに分断と対立を持ち込んだのは、
神戸市がこのまちの再開発に当たって設定した
新長田まちづくり会社による「一元管理」でした。
店舗部では管理会社の交替を求める声が多数なのに
一元管理を理由に神戸市が認めなかったため、
事態がこうももつれてしまったのです。
しかし、それはいま、
番組の後半で紹介したように解消しつつあります。
神戸市は一元管理の事実上の見直しに入りました。
見直しのポイントを一言でいえば、
「区分所有者の意思の尊重」ということです。
今後は、建物ごとに、
あるいは住居部、店舗部それぞれに、
区分所有者の多数意見をもって
管理会社を選定することになるだろうと思います。
つまり、
権利者の多数意見で資産の管理運用を決めるという
区分所有法上当然の大前提に立ち戻ることになるのです。
これは「匿名」さんにとっても朗報ではありませんか?
店舗所有者の意思に住民が従属させられることも、
その逆の事態もこの街からなくなるのです。
住居部がまちづくり会社を信頼するなら、
そこに管理を委託し続けることも当然できるはずです。
私はそれこそが事態の「正常化」だと思っています。
最後になりますが、
「取材」という縁を持たせていただいた人間として
新長田の街とそこに暮らすみなさんの今後が
少しでもよい方向に動いていくことを願ってやみません。
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