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ぼくは「ジャーナリスト」の端くれであるから、
本来は自分が取材してきたことについてしか語りたくない。
(「語る」のは自分が作る番組を通してでありたいとも思う。)
しかし、殺された後藤健二さんの件、
そしてそれに関する安倍内閣の対応については例外である。
ぼくは後藤さんとは面識がなかった。
(もともと「国内取材」を専門にやっていることもある。)
だが、ぼくの同僚のなかには、
後藤さんと深い信頼関係のもとに協働していた者たちもいる。
だから
後藤さんの死は決して他人事とは思えないし、
彼の死が彼の遺志とまるで違う方向に利用されるのは許せない。

Twitterにも書いたことだが、
事実認識はジグソーパズルに似ている。
断片的なピース(伝えられる事実)を丹念に嵌め込んでいけば、
必ず全体像が見えてくるものである。
ぼくは「イスラム国」(以下、IS)を取材したことはないし、
首相はもちろん政治家、官僚への取材ルートも持っていない。
つまりは「門外漢」なのだが、
そこは餅は餅屋、
断片的な情報を総合して全体像を把握する力は持っているつもりだ。

現時点でぼくが得ている情報に特殊なものはなく、
そのすべてがみなさんも知っていることだといって差し支えない。
その範囲でも確信を持って断言できるのは、
安倍内閣は「嘘を繰り返している」ということである。
「嘘」はよほど周到に用意しない限り綻びが出て、
その綻びを繕うためにまた嘘をつかざるを得なくなる。
すると綻びはますます大きくなり、収拾がつかなくなってくる。
いま安倍内閣はそういう状態にある。

政府の言動をすべてメモを取って残しているわけではないので、
多少話が大雑把になるのは勘弁していただきたい。
しかし、大筋では間違っていないはずである。

この問題に対する安倍内閣の挙動は当初から奇妙だった。
後藤さん、湯川さんの「救出に全力をあげる」といいながら、
「対応策を協議」したのはイギリスのキャメロン首相、
続いてアメリカのオバマ大統領である。
ともに「反IS」の姿勢を明らかにした「有志連合」の中核、
はっきりいえばISとの「交戦国」である。
ともに人質に身代金を払うことは容認しないとしている国だ。
とすれば、
安倍内閣のいう「対応策」が「救出策」であったはずはない。
最大限に好意的に見ても、
解放のため身代金を払ってもいいかと両国にお伺いを立て、
当然拒否されて、救出を事実上諦めてしまったというところだ。

決定的に怪訝に思ったのは、1月27日だったろうか、
「11月に首相官邸に情報連絡室を設置、安否確認を続けてきた」と
発表したときだ。
1月20日、ISが脅迫ビデオを公開してから一週間がたっていた。
事態が明らかになって一週間後の発表というのも不自然だが、
もし政府のこの発表が真実だとしたなら、
当然ながら、いくつかの疑問…つじつまの合わない点が出てくる。
一つは昨日の国会で小池晃議員が質問したこと。
政府が「情報を収集」していたのが事実だとすれば、
中東でわざわざISをあからさまに敵視する発言をすれば
拘束された日本人の生命に危機が及ぶことは判っていたはず、
なぜあのように挑発的ともいえる発言をしたのかという疑問である。
安倍首相は答弁をはぐらかして、まともに答えようとしなかった。
答えられなかったのだろう、と考えるほかない。
もう一つはきょうの国会で辻元清美議員が質問したこと。
情報連絡室を設置していたというなら、
いったい二ヶ月以上何をやっていたのかという疑問である。
外相は、1月20日に脅迫ビデオが公開されるまで、
「相手がISとは確認できなかった」と答えたようだ。
これが事実なら、日本政府の「情報収集」能力は問題の外である。
第一、後藤夫人のもとには、
ISからの身代金の要求が届いていたのではなかったか。
拉致し脅迫をしてきた相手すら確認せず、
二ヶ月ものあいだ、いったいどこの誰と交渉していたというのか?

辻本氏が指摘するように、
脅迫ビデオが公開されてしまうと互いに引っ込みがつかなくなる。
日本政府としても、
米英両国に逆らって公然と身代金による解放を図るのは難しくなる。
二人を救出できるチャンスは、
水面下で動くことができる最初の二ヶ月間にあったはずだ。
そこでベストを尽したうえで決まった中東歴訪だったのか…?
しかし、その間の日本政府の動きはいまに至るも不明のままだ。
本来はそれこそが検証されるべきなのだが。

そのほかにもマスコミでは、
中東歴訪に対する外務省の慎重論を官邸が退けたこと、
安倍首相自身の強い意志で
対IS強硬姿勢が声明に書き加えられたことなどが伝えられている。

こうして伝えられる「事実の断片」から推論できるのは次のことだ。

一、安倍内閣は湯川・後藤の両氏が囚われたことを知りながら、
  なんら有効な救出策を講じてこなかった。
  はっきり云えば官邸は人質に「無関心だった」。
一、そのことについては失敗だったと自覚している。
  少なくとも、国民感情の面で「まずかった」と認識している。
  だから、「11月に情報連絡室を設置した」などと糊塗に動いた。
一、ということは、
  政府の方針を貫徹するためには、
  ある程度の犠牲はやむを得ないと腹を括っていたわけではない。
  「確信犯」なら国民感情の反発は織り込み済みのはずだから。
一、つまり、ISを敵視する一連の発言は、
  発言に伴うリスクを充分に考慮したものではなかった。
  ISの脅迫ビデオ公開は政府にとって「想定外」の事態だった。
一、想定外の事態に慌てて有効な対策をとれぬまま、
  時間切れで最悪の事態を迎えた。

こうやって整理してみると、とんでもなく情けない気分になる。
以上の推論から透けて見える問題点は次の三点である。

一、日本政府においては
  情報の収集と分析能力(インテリジェンス)が機能していない。
一、従って危機管理能力に欠ける。
一、安倍首相は官僚機構にとってコントロール不能な存在である。

安倍首相は憲法を改定し、
日本を「戦争のできる国」に変えるのが理想のようだが、
こうした状態で戦争への道を歩み出すのは極めて危険である。
それこそ、「戦前の日本」の二の舞いになるのは間違いないから。


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