近藤紘一というジャーナリストをご存知でしょうか。生まれは昭和15年なので、ほとんど私の親の世代。ベトナム戦争やカンボジア内戦などを取材したサンケイ新聞の記者で、私がまだ中学生だった頃のサイゴン陥落を現地で見届けた、歴史の証人でもあります。
しかし、そういう記者としての経歴よりも、近藤さんを一躍有名にしたのはベトナム人の奥さんと娘さんについてのエッセイ(と呼ぶべきか?)「サイゴンから来た妻と娘」「バンコクの妻と娘」「パリに行った妻と娘」の三部作。1995年、東南アジアへの長期出張の際、最初の滞在先マレーシアのクアラルンプールで購入したのが「サイゴンから来た妻と娘」。日本人駐在員が多いこの土地では、当時、伊勢丹が進出していて、店内には書店を始めとして電化製品や食品、書籍など日本からの商品がたくさんありました。
移住後も時々読み返しています。
一読してファンになり、帰国後シリーズを全部購入。しかし残念なことに近藤さんは1986年、すでに不帰の人となっていました。長年に渡る過酷な取材と執筆活動の疲れが蓄積した結果だったようで、享年45歳。
たいへん身の程知らずな比較ですが、近藤さんと私とはいくつか共通点があります。東南アジアを仕事場としていたこと。そしてその地で出会った女性を配偶者にしたこと。それが二度目の結婚で、最初の妻は日本人だったこと。
どれも表面的なことで、近藤さんの溢れるほどの東南アジアの人々への愛情や、観察眼の鋭さ、行動力、好奇心...何を取っても敬意の眼差しで遠くから眺めるしかできないほど、人間としてのスケールが違いますが、東南アジア初心者だった私には、すばらしい先達であり、人生の師と感じられたのでした。
近藤さんの奥さんの故国ベトナムと家内の国フィリピンは、同じ東南アジアと言っても、まったく別の国。それでも日本人の私からすると、やはり似ている部分が多い。熱帯性の気候だけでなく、博奕好きな人が多いこと、信心深いこと(ベトナムの大乗仏教、フィリピンのカトリック)、女性がとても強く、家庭や社会の要諦を押さえていることなどなど。何よりも女性の嫉妬深さと激しさ...。大いに参考にさせていただきました。
特に印象的だったのは、「国際結婚では、妻の国に住む方が何かと上手くいく」という言葉。これは名言ですね。最初に読んだ時は、まだ家内と一緒になる前。でも後々思い当たることが多すぎるほど。それに愚直に従ったわけでもないのですが、結局今では師の言葉通り、家内の生まれ故郷のネグロス島に永住の身となりました。
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