舞台になっている架空の町「北海道極北市」は明らかに夕張市がモデルとなっており、
主人公である今中医師が極北市民病院に赴任する開巻の描写…
駅やホテル、スキー場の配置などが全く夕張そのままなので笑ってしまう。
大赤字の第3セクター「北の大地の遊園地」の観覧車というのも、
かつての夕張を象徴する光景として記憶に鮮明である(現在は撤去されている)。
ただ、「極北市」は人口10万人と、いきなり夕張の10倍近くに膨れ上がっているので、
スーパーが一軒しかないとか、
「酒屋が二軒、居酒屋が二軒、寿司屋が一軒…」といった描写がリアリティを失ってしまう。
夕張ですら、居酒屋は(ぼくの知っているところだけでも)六〜七軒はあるのだから。
海堂さんは、現実の「人口10万人の町」の規模というものを御存知ないのだろう。
この小説は、
夕張をモデルにした「極北市民病院」のなんとも情けない医療現場の描写に加えて、
大野病院事件を下敷きにした「医療過誤を理由とした産婦人科医の逮捕」劇がからむという構成。
海堂さんは卓越したストーリィ・テラーなので、展開は息をもつかせず、ぐいぐいと引っ張って読ませる。
しかし、小説としての全体設計はハナからぶん投げているとおぼしく、
他の海堂作品群を読んでいないことにはまるで理解できない人物が次から次へと現れ、
決着もつかないままに消えていくという至って乱暴なお話である。
これは従前の「海堂ワールド」の恣意的な全面展開であり、
そこに入れない読者は始めから相手にしていないかのようにも思える。
最後は「極北市」が財政破綻に陥り、
「自治体病院再建屋」と呼ばれる医師が着任するところで終わるのだが、
この再建屋の登場はあまりにもいきなりであり(伏線も何も用意されていない)、
産婦人科医の逮捕に関わる物語も宙に投げ出されたままなので、読み手は途方に暮れてしまうに違いない。
いったいどこに連れて行かれたのか…面白く読みながらも、最後に呆然としてしまうのである。
小説としての完成度からいえば決して高く評価できるものではない、
というか、率直に云えば「メチャクチャ」の部類に入るのではないかと思う。
しかし、その「メチャクチャ」さはたぶん意図的なものだ。
海堂さん独特のスピーディな文体、
その行間から隠しようもなく溢れ出してくるのは、
自身が医師でもある海堂さんが社会に対して抱いた根深い被害者意識、
もっと云えば、行政や司法、マスコミに対する「怨念」とでもいうべきものである。
それがwell-madeとは言えないこの小説の読後感をざらっとしたものにしている。
ぼくは取材を通してそうした医師たちの「怨念」をある程度理解できるポジションにいるので、
この不格好な小説の後味の悪さがしばらく尾を引きそうな予感がする。
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