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よく晴れた日曜日、谷根千を歩く。


作家の森まゆみさんらが企画した
谷根千「ダムとわたし」映画祭の場で
2月に放送した
ETV特集「あるダムの履歴書」を上映、
上映後にちょっとしたお話をすることになった。
谷根千(谷中・根津・千駄木)は大好きな街で、
二十数年前には
二年ほどだが住んでいたこともある。
だからこの街で開かれるイベントに招かれるのは
ぼくにとって最大級の光栄で、
大喜びで参加した。
せっかくだから街を歩いてみようと
イベント開始の2時間前に日暮里駅に降り立った。
近所の人たちの日常的な買い物の場だった
谷中ぎんざはまるで縁日のような賑わいである。

商店街のとっつきにある「後藤の飴」で
ニッキと生姜の飴を買い、歩き始める。
谷中ぎんざ、よみせ通り、
さんさき坂、旧藍染川の通り…
この街は変わっているようで変わらない。
変わらないようで変わっている。
かつて藍染川だった曲がりくねった道に面して、
間口一軒ほどの
ちいさなブティックが建ち並んでいる。
震災でも戦災でも焼け残った谷根千は
下町情緒を残したところで、
散歩していると
銭湯の二階から
三味線の爪弾きが聞こえてきたりしたものである。
江戸の洗練と泥臭さが同居していたが、
いまは泥臭さは影を潜め、
若い人が集まる街に生まれ変わっている。




「初音の森」と名づけられた防災広場を抜けて、
(この広場は二十年前にはなかったはず…
 何の跡だったのか思い出せない)
みしま地蔵尊に至る。
戦災で亡くなった人たちを
弔おうと建立されたものである。
地蔵尊の傍らには八重桜があって、
ちょうど見ごろ、夕日に映えて美しい。
そういえば、谷中墓地は桜の名所で、
罰当たりにも墓石に腰かけて
独りで花見を楽しんだ記憶がある。



躑躅の名所、
根津神社ではツツジ祭りが始まっていた。
日没前の最後の光で躑躅の丘を撮る。
満開少し手前で、
鮮やか過ぎず、落ちついた佇まいが好ましい。
根津神社の近くにある蕎麦屋「夢境庵」で
もりを一枚食べる。
かつて休日によく訪れていた店で、
相変わらず旨い。
東京の蕎麦屋としては安いのも嬉しい。

谷根千「ダムとわたし」映画祭の舞台は
かつて東大教授の家だったという
古い木造住宅に残された蔵の中である。
20人も入ればいっぱいの狭いスペースだが、
みなさんとても熱心に番組を見て下さり、
イベントが終わって終電まで酒を飲みながら語らう。
とても楽しく充実した一日だった。
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