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快作「フランキー・マシーンの冬」

ドン・ウィンズロウ「フランキー・マシーンの冬」(角川文庫)を読み了えた。
読み出したら止まらない、思わず快哉を絶叫するような傑作である。
ウィンズロウの作品はまだ「犬の力」とこれしか読んでいないのだが、
この二作で、ディーヴァーやハイアセンというご機嫌な面々をぶっちぎり、
ぼくのなかでは、
神にも等しい(暗黒神だが…)ジェイムズ・エルロイに継ぐ地位を確固とした。

ストーリーは引退したマフィアの殺し屋、
かつて「フランキー・マシーン」と異名をとった
フランク・マシアーノが突然命を狙われるところから始まる。
襲ってきたのは旧知のマフィアの面々なのだが、
フランクにはなぜ自分が命を狙われるのか皆目見当がつかない。
すでに老境を迎えようとしているフランクだが「黄金の腕」は未だ錆びつかず、
刺客たちを返り討ちにして、逃亡を続けながら、真相を探ろうとする。
やがて思いもかけない過去の事件が暗闇からその全貌を浮かび上がらせてくる…

アメリカ西海岸を舞台とした裏切りと欲望の物語は、
どこかエルロイ…素材的に「ブラック・ダリア」あたり…を思い起こさせる。
ニクソンなど実在の人物が物語のなかで重要な役割を負って登場してくるのも、
エルロイの諸作品と一脈通じる味がある。
ただし、エルロイの登場人物たちが、
物語の展開とともに「暗黒に交われば黒くなって」堕ちていくのに対して、
この作品の主人公・フランクは、
マフィアの殺し屋だった人物には妙な表現だが、
最後まで職業的な倫理観からくるある種の“高潔さ”を維持している。
サーフィン仲間のFBI捜査官との信頼関係も心地よいもので、
それがこの作品の読後感を随分よいものにしているのは間違いない。
エピローグの展開はあらかじめ「読める」が、余韻があって、ぼくは好きだ。

最近、老いを自覚している男たちが、
それでも職業的な「こだわり」を貫こうとする物語に心惹かれることが多い。
ぼく自身が老いつつあることの証に他ならないのだろう。
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