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病院の朝は早い。
アムステルダムの朝も早いかも知れないが、
病院の朝はきっともっと早い。
6時過ぎにはナースがまわってくるので、
それまでには起きなければならぬ。
しばらくベッドの中で本(「満州国演義・7」)を読み、
朝食を食い、
(入院以来、菜っ葉のひと欠けも残さず完食中)
障子(なぜかカーテンではなく障子なのだが)を開けると、
雪が降りしきっていた。


初雪は数日前にほんのチラッと舞ったが、
これほど本格的な雪はこの冬初めてである。
ぼくは今日でいったん退院なのだが、
来週の水曜日にはまた入院しなければならない。
云ってみれば、執行猶予をもらったようなものだ。
主治医に確かめたところ、
再入院までは何を食べても、
そしてこれが肝腎なのだが酒を飲んでもいいというので、
すぐにネットで温泉宿を確保して、
願わくば雪見酒…と洒落込むことにした。
もっとも、
退院する午前10時過ぎには雪はあがっていたのだが。

雪は止んでも酷く寒い。
仙台は真冬の寒さである。
こうなると、ますます温泉に行くしかない。
そうでなければ、やってられない。
温泉旅行の荷物をまとめて、
昼食を文化横丁の「小判寿司」で食べる。


昔ながらの仕事をしている寿司屋の例に漏れず、
この店のちらし寿司も実に旨い。
きょうは退院祝いで竹(1700円)を奢ったのだが、
1200円の梅でも充分に旨い。
回転寿司だって
一寸油断すれば1200円くらいには平気でなる。
それを考えれば、
職人仕事を満喫してのこの値段は人生を豊かにする。

13時40分の東北本線普通列車に乗り、
小牛田で乗り換えて陸羽東線、
鳴子温泉を越えて
赤倉温泉に着いたときには16時半をまわっていた。


今夜の泊まりは、今朝予約した「湯守の宿 三之亟」。
「日本秘湯を守る会」の会員旅館で、
ロビーの感じがなんとも実に結構である。
もっとも、寒そうだから、
ここで座っていたいという気にはならないのだが。

この宿の名物は岩風呂だという。


湯船の周りに岩を並べた「岩風呂」なら珍しくもないが、
ここの風呂は岩をくりぬいて作ったというから驚く。
そのため、湯船の底が平らではない。
でこぼこしていて、
深いところでは身長170cmのぼくの肩くらいまである。
「湯かき穴」といって、
湯をかき出すために深く掘られたところらしい。
実に野趣溢れるもので、
写真で云えば右上の方にある打たせ湯も心地よい。
もちろん源泉かけ流しだ(泉温が高いので加水している)。


広い浴室の真ん中にあるこれが源泉で、
「三之亟一号」と呼んでいる。
泉質はカルシウム・ナトリウム−硫酸塩泉。
なんというか「柔らかい」お湯で無味無臭、
加水の関係でぼくには多少ぬるく感じられた。

この宿には三つの風呂があり、
露天風呂は源泉が「三之亟二号」で多少泉質が違う。
微かに硫黄臭が感じられるのである。
泉温はこちらの方が低いが、
加水が少ないからだろう、ぼくにとってはこちらが適温。
真っ暗で写真を撮るのは断念したが、
こちらも大変いいお風呂である。

料理はそこそこで
可もなし不可もなしというところだが、
これだけの温泉があって土曜日で1万円以下なら安い。
執行猶予中の身の上としては、
350mlの缶ビール1本と
出羽桜の冷酒(300ml瓶)1本であえなく酔ってしまう。
いつもならビールの中瓶が1本に
300ml瓶の地酒2本というのが相場なのだが…。


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