ユーロスターでパリからロンドンに移動する。
同じユーロ圏でもイギリスは自国通貨のポンドを守っており、
通貨が違うためか、駅で出国手続きが必要である。
そんなことをつゆ知らないぼくは、
ぎりぎりの時間に行って、
予約していた便への搭乗を断られてしまった。
無料で一時間後の便に変更してくれたから、
ことなきを得たのだが。
パリとロンドンの時差は1時間。
ロンドンの方が遅いので、
時間に余裕があって得した気分だね、と妻がいう。
なに、その「得」は、
日本に帰るときに一挙に取り返されてしまうことになる…。
ロンドンのセント・パングラスだかなんだかいう駅から
地下鉄で市街中心地のピカデリーに。
夫婦で初めてのヨーロッパ旅行の最終日だからと、
贅沢をして五つ星ホテルを予約していた。
チェックインすると、
格上の部屋を用意しておきましたと言われ(たのだと思う)、
「Thank you,Thank you bery much!」と大いに喜ぶ。
ここがそのホテル、Le Meridien Piccadily。
なぜかフランス風のネーミングだが、
風格のある建物で、部屋も広々としていて心地よい。
(*ところが、
翌日チェックアウトするとき確かめると
しっかり「格上の料金」を請求されていた。
文句を言おうにも語学力がついていかないので、
結局は泣き寝入りということになる。
妻は「イギリス人はずるい」と怒った。
中国生まれの彼女には
阿片戦争以来の降り積もった怨念があるのかもしれない。)
ホテルに荷物を預けて散歩に出ると、
ちょっと歩いたところにチャイナタウンがあった。
何も予習して来なかった場当たり旅行なので、二人とも驚く。
もうすぐ旧正月で、
街は綺麗に飾り付けられていて、人出も多く賑わっている。
予期せず故郷の香りを嗅いだ妻は
駄々っ子みたいにその場から動かなくなった。
昼食はすでにユーロスターのなかで食べていたのだが、
妻のたっての希望で餃子を一皿食べ、
街角で実演販売中の中国風のクレープを食べた。
クレープは、正しくは「煎餅」という。
日本の「煎餅」とは全くの別物で、
妻によれば、日本ではあまり見かけないらしい。
ぼくも一口食べたが、けっこうおいしかった。
そこからコヴェントリーの市場に行くつもりが、
道を間違えた。
ぼくは方向感覚がいい(と自負している)ので、
知らない街でも
地図さえあれば不自由なく歩きまわるのだが、
ロンドンは道が微妙な角度で交錯しており、
ひとつ間違うととんでもない方向に逸れていくのである。
結局、一時間も大まわりしてしまい、
歩くのが嫌いな妻のご機嫌は険悪になった。
ここが、ようやくたどりついたコヴェントリーの市場。
庶民的な活気に溢れたところである。
ここでは
Apple Marketという半露天の雑貨市が開かれている。
すぐそばにApple Storeがあるのが、なんとなくおかしい。
市場に隣接してBurberryの専門店が目に入ったので、
寒空の下をえんえん歩いて
すっかりナナメになった妻を宥めるつもりで入店する。
洒落た色のマフラーを買って機嫌を直した妻は、
あなたもそんなダサい格好をしていないで
Burberryを買いなさいと言い出した。
ぼくはご当地英国産のツィードのジャケットに
雨の多い風土にあわせた Barbourのコートを着こんでいて、
重厚でこそあれ「ダサい」と言われるのは心外極まりない。
しかし、
ちょっとベッカム似の商売上手の店員の勧めもあって、
若作りのジャケット(ブレザー)を買うことになった。
日本で買うことを思えば確かに安いし、
税金が20%返って来るので「お得」には違いない。
購入原資は、
妻の指示により、
その他の旅行費用の不足分とともに
昨年末の入院で得た保険金を当てることになった。
腸を25㎝切り取った代償は
こうして異国の地で雲散霧消してしまったのである。
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