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今回の取材で初めて知ったのだが、
スーパーなどには、年二回、「棚割り」と呼ばれるビジネスの節目がある。
商品を陳列する棚の配分を決める一種のコンペで、
納入業者の営業マンは今後の主力としていく商品を売り込む。
商品としての魅力を認められれば、
それから半年間はスーパーの陳列棚の一角を確保することができる。
一方、認めてもらえなければ、半年間そのスーパーでの売り上げがゼロになってしまう。
中小零細業者が乱立群居する食品業界などでは、
この「棚割り」商戦に敗れれば経営が一気に傾きかねないほどの重みを持つ。
北海道では、今週、
秋から冬にかけての陳列スペースを奪いあう各スーパーの「棚割り」が相次ぐ。

17日に民事再生法を申請し経営破綻した旭川のT食品は、
「北海道村本舗」という新しいブランドを打ち出し、
商品パッケージもそれまでとは全く変えて「棚割り」に臨んだ。
常識的に考えれば、
先週末に破綻した企業が連休をはさんでいきなり攻勢に転じるとは誰も思わない。
T食品が確保してきた棚は競合各社の草刈り場になるだろうと思われていたところに、
「生まれ変わります」というメッセージを託した新しい商品ラインを撃ち込むのである。
コストをかけて道産品を中心とした良質の原料を使いながらも
安売り合戦に埋没していたT食品の企業イメージを一新しようというのが、
支援に乗り出したS社長の戦略だった。
そのために、水面下で行われていた民事再生法申請の準備と併行して、
商品ラインナップの抜本的見直しというもう一つの極秘プロジェクトが進んでいたのである。
企業の破綻と再生が同時進行する稀有な時間をぼくたちはつぶさに見つめてきた。

昼夜兼行の突貫作業で準備された新しい商品パッケージの見本があがったのが昨日の夜19時。
デザイナーはスーパーで各社の競合商品を買い込んできて検討を加え、
それまでの業界の常識とは全く違うコンセプトのパッケージに仕上げた。
ブランド名を強く打ち出したことと、「シズル感」を強調することにこだわったという。
さらに小さな修正を加え、
今朝8時半にS社長のゴーサインが出て、営業マンたちは商談に飛び出していった。

S社長の再建戦略はコストカットと売上げ増の両面に渡っているが、
そもそも基礎体力が違う大手との価格戦争という消耗戦に終止符を打ち、
「この会社のものなら安心」というブランド・イメージを確立することを焦眉の課題とする。
そのためには「倒産」はむしろ変革のチャンスなのかもしれない。
再建の成否を占う「棚割り」の結果は来週には明らかになるだろう。

取材していて痛感するのは、S社長の決断の早さとスピード感である。
収支の洗い出しや従業員へのヒアリングによって課題が明らかになると、
すぐさま対応の方向を決めて指示を出す。
GOかSTOPか、方針を即決する。
社長自身の行動予定が状況に応じてどんどん変わっていくので、
取材する側としては社長の動きから目を離せない。
いきなり旭川から札幌に走ったりするので、ついていくのが大変である。
しょうがないので、社内で行われるあらゆる打ち合わせにぼくも“参加”することにした。
社長や幹部が話し合いをしている部屋にノックもせずに入り込んで一緒に話を聞き、
面白いと思えばスタッフを呼んで撮影を始めるのだから考えようによっては無礼な話だが、
いまのところ咎め立てをされないところをみると構わないのだろう(笑)。
しかし、自ら重いリスクを負い、従業員の生活を支えなければならない中小企業の経営者は、
S社長くらいの力量がなければ務まらないのだろうとつくづく思った。
どう考えても、大変な仕事である。

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