山形県の赤倉温泉を訪ねた。
JR陸羽東線は温泉列車の趣があって、
川渡温泉、東鳴子温泉、鳴子温泉が連なる。
鳴子温泉駅で乗り換えて、
中山平温泉を抜け、
山形県に入ったところに赤倉温泉はある。
駅から温泉街までは距離があるので、
宿の人に駅まで迎えに来てもらう。
去年の12月、
大腸に癌が見つかって
検査入院から退院した日にこの赤倉温泉を訪れた。
そのときは「湯守の宿 三之亟」という宿だったが、
着いたときには暗くなっていたので温泉街の印象はない。
今回初めて歩いたが、
小国川の両岸に開けたこじんまりした温泉街である。
十軒ほどの宿があるが、
浴衣姿の湯治客とすれ違うこともない、
鄙びた、というより多少寂れた印象の街だ。
同じ山形県最上地方の
肘折温泉をもうちょっと淋しくしたようなところで、
静けさを好むぼくにとっては大変居心地がいい。
今回泊まったのは「いづみ荘」で、
味も素っ気もない、民宿のような建物である。
かなり古いが、掃除は行き届いているので気にならない。
お風呂も素っ気ないもので、
岩風呂や露天のある「三之亟」とはかなりの差がつく。
源泉かけ流しの温泉は、かなり熱い。
泉質はカルシウム-ナトリウム-硫酸塩温泉。
無味無臭無色で温泉っぽさはないが、
湯上がりのさっぱりした気持のいい湯である。
部屋の窓を開け放てば、
爽かな山の涼風が吹き込んできてクーラーは要らない。
この「いづみ荘」の良さは食事が美味しいことで、
食いしん坊のぼくの得点は、
ここで一気に「三之亟」を逆転する。
主は本格的に料理の修業をした人ではないか。
素材が吟味されているのに加え、
ひとつひとつ料理としてきちんと拵えてある。
鍋も天麩羅も茶碗蒸しもなく、
いわゆる「温泉料理」とは一線を画しているのがいい。
山の中で海産物を食べるのは主義に反するが、
岩牡蛎やホッキやボタンエビなどの刺身、
いずれも鮮度抜群で美味。
小ぶりな鮎も天然物なのだろう、
苔の香りが鮮烈で文字通りの「香魚」である。
1泊1万円以下の温泉旅館の食事としては、
ぼくの知る限りでほぼベスト。
ビールはスーパードライしか置いていないが、
ドライは嫌いだと言ったらキリンを用意してくれた。
日本酒は出羽桜の本生冷酒で、これは文句なし。
湯も食事もよく、静けさに包まれた環境、
ゆったり時間を過ごす場所としては最高である。
一夜明けた今朝は、
10時41分赤倉温泉発のJRに乗って駅ふたつ、
中山平温泉駅で下車。
しばらく歩いたところにある
「しんとろの湯」に入る(入浴料420円)。
ここはph9.3という強アルカリ性の湯で、
体の表面がぬるぬるになることから
「うなぎの湯」とも呼ばれているようだ。
実に気持のいい湯で、
日曜の午前中だというのに
すでに大勢の入浴客で賑わっている。
夏の盛りの鳴子峡を眺めながら、
昼食をはさんで1時間半ほど歩いて、
今度は東鳴子温泉・高友旅館の黒湯に入浴。
入浴料は500円である。
以前も書いたが、
独特の油臭さがある湯で、
湯船につかると柔らかく体を包んでくれるようだ。
夏の陽射しのなかを歩いてきた疲れが
お湯に溶け出していくようで体の芯から癒される。
陸羽東線沿いには本当にいい温泉がたくさんある。
温泉ではないが素晴らしい宿、
酒田市の「若葉旅館」からスタートして、
肘折温泉「ゑびす屋」、
赤倉温泉の「いづみ荘」、
1泊1万円以下で泊まれて
食事の美味しい宿を泊まり歩く旅をしてみたい。
仙台にいるあと一年のあいだに何とか実現したい、
ぼくのささやかな夢である。
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