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テレビをダメにしている「三つの理由」

きのう「メディア・アンビシャス」の表彰式に出て、
北大の山口二郎先生や「シアターキノ」の中島洋さん、
大賞受賞者の堀川惠子さん(フリー・ディレクター)らと午前様で飲んで語り合い、
東京に帰る飛行機のなかでこの文章を書いている。
昨夜は堀川さんが大学の後輩だと知って驚いた。
後輩とはいってもひとまわり年が違うし、ぼくが卒業した学部はいまはもうないのだが…。
それにしても、地方のマイナーな大学だから、こんなことは珍しい。
きょうは午後から今夜放送の番組「倒産」の完プロ(字幕入れ)の予定だ。

昨夜、大いに語り合ったのは、マス・メディアをめぐる状況論である。
飲み会には来られなかった中島岳志先生も含めて、参加者の意見はほぼ一致していたように思う。
いまのマス・メディアをダメにしているのは、
「わかりやすさ」を追求するあまり視聴者(読者)に迎合し、
その結果、既成の価値観をなぞるだけの「ステレオタイプ」の報道が蔓延っていること。
もうひとつは、メディア内部の人間が物分かりよくなり過ぎて「空気を読む」ことである。
「空気を読む」という言葉の中には「権力の意志を体する」という意味も含まれており、
それを中島岳志先生は「ETV2001裁判」の判決にあった言葉を引用して「忖度する」と表現した。

実は、昨夜は云わなかったのだが、
ぼくはテレビの場合は「ダメにしている理由」がもう一つあると考えている。
テレビに対する「批評軸の不在」である。
作り手としてかなりうんざりしているのは世の中に「マトモなテレビ批評」がないことで、
面白かった、面白くなかったという「印象批評」と、
活字文脈を引きずった「テーマ主義」に両極化しているように思う。
その原因は、端的に言えば評者が「映像言語を読み解けない」からで、
活字文化にどっぷり浸って自己形成してきた「有識者」にとりわけその傾向が強い。

ぼくはテレビ屋として「何を撮ったか」で評価してほしいと考えている。
比喩的に云えば、
映像として記録する(=撮る)ことがテレビ番組という樹の幹であり、
幹が太く成長するためには土中に「取材」という根を充分に張っていることが必要なのだ。
そして「撮ったこと」のうえに、
それをより的確に表現するための「編集」や「ナレーション」が葉として繁る。
だから、テレビ番組を「どんなテーマを扱ったか」で評価する大方の“良心的批評”には違和感を拭えない。

「メディア・アンビシャス」で云えば、
賞をもらったからホメるわけではないが、そのあたり見巧者が揃っているという印象である。
ぼくの「夕張 年老いた町で」の受賞理由を引用させてもらえば、

「地域医療問題解決の糸口を探るのと共に、
 『人間にとって死とは何か』という普遍的テーマにも迫っている点が高く評価された」。

…こう書いていただけると、作り手としてはとても嬉しいのである。
大賞の「死刑囚・永山則夫」の受賞理由(抜粋)は、

「永山にとっての『生』の意味が変化してくる様子が描かれ、人間としての普遍的な問いに迫っている。
 さらに、その軌跡が現在の死刑制度に対する鋭い問題提起にもなっており…」。

両者に共通して使われているのは「普遍的」という言葉である。
表面的なテーマのもうひとつ奥に、「普遍性」があるかどうかを評価基準にしていることが読み取れる。
わが意を得たり!…と快哉を叫びたい気分だ。
ぼくらはある個別具体的なテーマを取り上げ、それを「撮る」。
しかし、具体的な社会事象(死刑制度であったり、地域医療であったり)を見つめながら、
どこかで人間にとっての「普遍性」にまで突き抜けたいといつも思いながら仕事をしているのである。
(それはたぶん堀川さんも同じだろうと思う。)

メディアに対して積極的な発言を続け、マスメディアの現場を肌で知っている山口先生、
自主映画の作り手でもあった中島洋さんは当然としても、若い中島岳志先生の鋭さには正直云って驚いた。
大賞受賞者の堀川さんに対するインタビューのなかで、
こちらがハッとするような指摘が再三にわたってなされたのである。
それは映像に対する極めて具体的な言及であり、ある意味で技術論的ですらあった。
この人はテレビ(映像)が解っているな、と内心舌を巻く思いだった。
後で訊いたら、学生時代にBK(NHK大阪)で歴史番組のリサーチャーをしていたという。
そういう経験がどこまで役に立っているかは判らないが、
中島先生のような「映像言語が読める」世代のオピニオン・リーダーが積極的な発言を続けていけば、
「論壇」も変わるだろうし、テレビ批評の一面の荒野に「批評軸」が打ち立てられる日もくることだろう。
その日までテレビというメディアが残っていれば…の話だが。

昨夜は最後に中島洋さんが
「(メディア・アンビシャスを始めて)その気で見るようになったら、
 けっこういい番組というのはあるものですね」と云った。
この言葉を糧に、テレビの現場で踏ん張っていきたいと思う。
確かに「テレビはダメ(なメディア)」だが、絶望するには早すぎる。

…ところで、今夜放送の「倒産 〜中小企業・再起までの150日〜」(23時〜GTV)、ぜひご覧ください。

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