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番組「大阪“非常事態”宣言」は明日夜10時の放送です。

ETV特集「大阪“非常事態”宣言 〜生活保護・受給者激増の波紋〜」が完成した。
放送は明日夜10時の教育テレビである。

今回の番組は、編集ができあがってから、
あるいはナレーションを入れ終わってから、いつもの何倍もの手間を要した。
出演者の顔を消したり、声を変えるためである。
生活保護を受給していることを他人に知られたくないと思っている人は多い。
(というより、ほとんどの人がそうだろう。)
だから、プライバシーの秘匿にはいつもの何倍もの気を遣った。
気を遣えば、当然ながら時間も使うことになる。
きょうも一度番組を完成させてから、
もっときちんと身許が特定されないようにすべきだという
プロデューサーの助言に従って作業をやり直すことになった。

25年ほど前、ぼくは「おはようジャーナル」という朝の情報番組を担当していた。
豊田商事などの悪徳商法を追及する仕事をメインとしていたため、
被害者や内部告発者など出演者のほとんどについて顔を隠し、声を変えざるを得なかった。
だから顔を隠してインタビューを撮る方法についてはかなり熟達したと自負しているし、
近ごろの民放のワイドショーなどで
安易に覆面インタビューを撮っていたりするのを見ると苦々しくも思う。
そんなぼくにして、
今回の番組ほど徹頭徹尾、登場人物の顔を隠さざるを得なかったのは初めてかもしれない。
生活保護の受給者のみならず、
調査に赴く市役所職員の顔も(当人の安全のため)隠さなければならなかったから大変だった。

しかし、仕上がった番組を見て、いささかがっくりするハメになった。
顔を隠し、声を変えるということは、“行間”の情報を犠牲にすることに他ならないからである。
ニュース的な意味でいう「情報」であれば、顔を隠そうが声を変えようが充分に伝わる。
だが、ぼくが番組作りで一番大切にしている
微妙な表情やニュアンス、その場の空気感とでもいうべきものは、
顔が見えなかったり声が聞こえにくくなれば大半が欠落してしまう。
だから、無修整で試写をしたときのインパクトと完成版では何かが決定的に違っていた。
そのあたりは、ポルノ映画と一脈通じるのかもしれない(笑)。
封切り時にみた大島渚の「愛のコリーダ」(映倫による徹底修正版)と
数年前のディレクターズ・カット版とでは感動がまるで違っていたことを思い出す。
無修正のハードコア版を見ることができれば、
興奮が…ではなく、映画としての感銘がさらに違っているのだろうと思う。
映像とは、そうしたものなのである。

今回の番組は、ぼくが手がけた番組には珍しく「情報番組的」になった。
それはそれで日本社会が抱える矛盾を抉って見応えがあるだろうと自負してはいるが、
どこかに不完全燃焼感がつきまとうのは否めない。
…でも、見てください。
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