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春だというのに南相馬は…

 2月末以来、40日ぶりの南相馬ロケ。
仙台よりひと足早い春に出会う。
放射線量は街なかにいれば日に1μSv程度で、
仙台や東京にいるのとそれほど変わらない数字だ。


いつも取材させていただいているMさんのお宅では、
桜がほぼ満開を迎えていた。
ぼくにとって今年初めての「花見」である。


もっとも、街の中では満開ちかい桜も、
山側の地区ではようやく蕾が膨らみ始めたところ。
標高によって季節がかなり違っているのを実感する。
八木沢峠を越えて飯舘村まで行くと、
桜の満開は5月の連休あたりになるという話だ。


海側の地区では津波に洗われた傷跡が
一年経ってもほぼそのままの状態で残っている。
塩をかぶった田んぼは、
放射能の影響への懸念もあって、
今年も田植えは行なわないことになった。
あと何年たったら、
この土地に「普通の生活」が戻ってくるのだろうか。

本来なら、
南相馬市では
4月から本格的な除染が始まるはずだった。
施工に当たる企業(JV)の選定も終わっている。
しかし、まだ正式契約には至っていない。
除染に伴って出る
放射性廃棄物の「仮置き場」が決まらないからだ。

市役所では当初、
海側の市有地2ヶ所を仮置き場にする計画を立てた。
一ヶ所は津波の被害を受けた野球場である。
ここに放射性廃棄物を埋め、
中間貯蔵施設ができるまでの3年間(予定)、
厳格に安全管理しながら貯蔵することにしていた。


しかし、計画が公にされると、
予定地周辺の住民から激しい反発の声が上がった。
海側の地域はもともと放射線量が低い。
そこに放射能が濃縮された廃棄物を持ち込むなど、
もっての外だというわけである。
市は海側の地区への仮置き場設置を事実上断念し、
放射線量の高い山側の地区で新たな候補地を探した。
しかし、やはり周辺住民を説得することが出来ない。

放射能汚染に対する不安感が強い山側の地区では、
一刻も早く除染を始めて欲しいという声が強い。
そこで行政区単位で、
地元の除染に伴って出る廃棄物を埋めるための
「仮・仮置き場」用地を探すことにした。
いくつかの地区は既に仮・仮置き場を確保したが、
受け入れるのはあくまで地元から出る廃棄物のみだ。
よそのゴミまで面倒見きれないというのが
住民の本音なのかもしれないし、
そもそも
市全体の廃棄物を受け入れるほどの面積がない。

各行政区ごとに仮置き場を用意し、
用意できたところから順に
除染を始めるべきだという声が市役所内部にもある。
しかし、
人家の密集した中心市街地に
仮置き場を作るのは事実上不可能であり、
除染を始めても早晩行き詰まるのは目に見えている。
さらに云えば、
南相馬市の行政区は130余り、
それだけの数の仮置き場を作ってしまうと、
「きちんとした安全管理」など出来ない相談になる。

南相馬の「除染」は
こうして始める前から頓挫した格好である。
南相馬市という一つの自治体の中ですら、
住民合意が出来ず、
放射性廃棄物の押しつけあいが始まっている。
こんなことで、
政府が3年以内に双葉郡内に作るとしている
中間貯蔵施設の建設など果たして可能だろうか?
ましてや、
政府が「福島県外に作る」としている
最終処分場を受け入れる自治体があるとは思えない。
…最終処分場が決まらないから、
中間貯蔵施設の立地を受け入れて
事実上の最終処分場になったら困るという不安。
中間貯蔵施設が決まらないから、
仮置き場にいつまで置けばいいのか判らない不安。
不安と猜疑が連鎖して、何も決まらない。
これは不毛なババ抜きである。
「目に見えない放射能」というジョーカーは、
すでに生活環境を汚染された
被災地の人たちの手にそのまま残されるのだろうか。


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