Main menu

Pages

仙台は雪の朝を迎えた。


ぼくは手術以来、集中治療室・ICUから出られないでいる。
術後の症状が重いから長引いているというわけでもなさそうだ。
(その証拠に、昨日も一往復200mの病院の廊下を歩いて20往復した。)
週末は事務職員が休んでいるので、
病棟への入院手続きをとることができないのではないかと“邪推”している。

ICUは9時に消灯で、
(実は一般病棟も同じなのだが、個室なら内緒で宵っ張りが可能)
インターネットが使えないので退屈である。
そのうえ隣には認知症が入ったお婆ちゃんがいて、
夜中に奇声を発するは
点滴のチューブを引っこ抜いて大騒ぎになるはで眠れない。
そのうえ
術後も体力にまかせて動いているうちに
硬膜外に入れていた麻酔のカテーテルがずれてしまい、
ヤクが切れた格好で激痛にのたうちまわるハメになった。
腹を切ったわけだから、これは当然、痛い。
つくづく思ったのは、
好き好んで腹を切るヤツの気がしれないということだ。
三島由紀夫は痛かっただろうな、とつまらないことを考える。

妻は昨日の手術の一部始終をモニターで見ていたが、
手術後に摘出した癌の現物を見ながら医師の説明を受けた。
「癌って赤褐色の花びらのような形」だったという。
癌は腸壁を通り越して裏側にまで出ていたそうで、
いまのところ目に見える転移は確認されていないが、
「癌の種」は既に飛び散っている可能性を無視できないだろう。
医師からは「6割の確率で抗癌治療が必要」という説明があったという。
…ハゲになったら嫌だな、俺は。
眩しいのが苦手なのでいつもサングラスをかけているが、
スキンヘッドにサングラスのいでたちで取材に行ったら、
どこか違う世界の住民に見られてしまいそうではないか。

妻が主治医に聞いた話では、
開腹してみたところ、虫垂が腫れていたらしい。
癌に盲腸炎を併発していたということだ。
改めて手術をするのも馬鹿馬鹿しいので取ってしまいましたという話で、
なんとなく得をした気分だ。
(病院も歳末謝恩セールかね。)
妻は先生に
「かなり腫れていましたが、
 ご主人は痛がりませんでしたか?」と訊かれ、
「あの人は…鈍いんです」と答えたそうだ。
そういう言い方はない、と思う。

鎮痛剤とともに腸の働きを活発にする薬を入れているので、
お腹がグルグルしている。
その割にガスも便も出ないから、腹が張ってしようがない。
妻に付き合ってもらって廊下を5往復して小休止。
これからもう5往復するつもりだ。

(iPhoneにて更新)

reactions

コメント