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MSCBと聞いてピンとくる方は、そこそこ株歴が長い人だと思います。2005年にライブドアがニッポン放送を買収するために発行したことで一躍有名になりました。

MSCB は Moving Strike Convertible Bond の略で、日本語では「転換価格修正条項付転換社債あるいは下方修正条項付転換社債」という長ったらしい名前がついています。

読むだけでは分かりづらいので思いっきりカンタンに言い換えると「発行企業=死亡フラグON」と覚えて頂ければOKです。MSCB は海外では通称 death spiral bond と言われているほどです。

MSCB がなぜ死亡フラグなのかと言うと、一般にこれを発行する企業は、銀行から借入することも普通社債を発行することも、株を公募することも出来ない事情があって、最後の最後に残った資金調達方法だからです。

そんな死に体企業が最後に可能な資金調達とはどんなものか、そのスキームをライブドアの事例で見てみましょう。

事例概略
  • ライブドアが総額800億円の MSCB を発行しリーマン・ブラザーズが引受ける
  • 転換価額は直近のVWAP(加重平均価格)の90%に修正する
  • 堀江社長がリーマン・ブラザーズに自らの保有株を貸す

さあ、リーマンはこの MSCB を引き受けました。これでリーマンはノーリスクで引受け価額の10%以上を短期間で儲けることができるのです。そのスキームの基本はこうです。


堀江社長から借りた株を市場でドカドカ売る

株価が暴落する

暴落した株価から10%ディスカウントした価格で社債を株に転換

転換した株を堀江社長に返して、ほなサイナラ

市場にはライブドア既存株主の死体の山が残される



という具合です。実際にはこれを繰り返し行うのですが、要はMSCBは引受けた投資銀行が100%巨万の利を得て、既存株主が100%損失を被ることになるのです。

既存株主は株価の暴落と希薄化で市場の生贄と化すものの、投資銀行は100%儲かるので死に体企業でも金を貸すというわけです。

当然、これは「企業は株主利益を優先するべきである」という原則の真逆を行くものですので、一度でもこれをやった企業は市場からの信頼を永久に失います。したがって、死亡フラグONとなるのです。仮にその後市場に残っていたとしても、2度と近づかないことをお勧めします。


それにしてもその後、発行したライブドアのみならず、引受けたリーマンも市場から姿を消す結果となったのは興味深いですね。
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