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“遺作”「下神白団地の人々」は今夜放送です。

今夜はぼくが
NHKのディレクターとして作った最後の番組が放送される。
原発事故で住み慣れた家を追われ、
いわき市の復興公営住宅で暮らし始めた人たちの物語だ。
福島県営下神白(しもかじろ)団地。
ちょうど一年前、去年の2月に入居が始まり、
200世帯337人が暮らし始めた。
事故を起こした福島第一原発にほど近い
富岡、大熊、双葉、浪江の四町の人たちで、
様々な事情で自宅への帰還が難しい彼らにとって
ここが“終の住み処”ということになる。

県営下神白団地

ぼくが初めて下神白団地を訪れたのは去年の春で、
神戸で21年間、被災者支援のボランティアを続けてきた
牧秀一さん(65)と一緒だった。
牧さんは、神戸での経験から、
復興公営住宅で被災者が孤立していくことを危惧し、
毎月一度、神戸から福島に通い続けることを決意していた。
最初に下神白を訪れたとき、
牧さんとぼくがともに強烈な印象を持ったのは、
アパートの建物のあまりの殺風景さと
そこに高齢者ばかりが住んでいることだった。
敷地内には緑やベンチがほとんどなく、
居住者が集まって世間話ができる“居場所”がないのである。
200世帯のうち、60歳以上の独居世帯が83、
後期高齢者の一人暮らしだけで39人を数える。
それに対して小中学生は一人もいない。
原発事故は、
いわき市の一角に超高齢化社会を生み出したことになる。

団地に二脚しかないベンチにて
横山けい子さん(富岡町・86)と神戸からきた牧秀一さん

確かに高齢者が孤立しかねない条件がそろっていた。
ぼくは他の番組を作りながら、
あいまを見てこの下神白団地に通い続けた。
少しずつ、団地の人々と知り合い、親しくなった。
本格的に撮影に入ったのは10月からで、
信頼関係の熟成には充分時間をかけることができた。
ぼくはNHKという組織に対してはいろいろ批判もあるが、
番組の準備に充分な時間をかけさせてくれたことには
一貫して感謝の念を抱いている。
そして、
原発事故で避難をした高齢者の生活などという、
このうえなく地味な番組を作り続けさせてくれたことにも。

牧さんと渡部清さん(浪江町・78)…クリスマス会にて

ぼくは下神白団地を舞台に、
原発事故でふるさとに住めなくなり、
見知らぬ土地で
新しい共同体を作り上げようと努力する人々の姿を撮った。
とりあえず、ぼくの“最後の番組”である。
ぼくは、若い頃から、
テレビ・ドキュメンタリーの使命は、
ある時代にある社会状況を背負って必死に生きている
無名の人たちの貌(かお)を記録するものだと考えてきた。
そういう意味で、
最後まで自分らしい番組を作れたことに満足している。
これが文字通りの“遺作”になっても悔いはない。


ETV特集
下神白団地の人々

今夜11時Eテレにて放送(59分番組)
再放送:2月20日(金曜深夜)午前0時


NHKは先月いっぱいで退職したが、
福島との御縁がこれで切れるわけではない。
新しい関係を求めて、近々また旅に出ることになるだろう。







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