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無責任な言説について

番組というかたちでの「表現」を生業とする以上、
批判を浴びせられるのは、当然、覚悟のうえのことである。
番組を見てくださる方々には「それぞれの観点」が保障されている。
だから制作者としては批判は批判として甘受するしかないと考えている。
もちろん、なかには心ない、単なる罵詈雑言としか思えないものもある。
あるいは、勘ぐりとしか思えない、根拠レスな「決めつけ」も少なくない。
だが、それはそれで、
書いた人たちの器や“品格”の問題だと思っているので反論する気はない。
かみさんは愛する亭主(?)への批判を読んで怒り狂ったりするのだがw、
ぼく自身はまるで腹を立てていないのが正直なところだ。

とはいえ、看過できない言説もある。
例えば、匿名で寄せられたコメントの一部…

「福島が死の土地であることぐらい、しっかり認識すべきです。
 その上で、そこに住んでいた人たちをどうすべきなのか、
 考えねばならないと思います」

書いた本人に悪意はないのかもしれないが、無責任極まりない。
なぜこうした言説が無責任なのか?
問題は「福島が死の土地」という表現である。
「住民の気持ちを傷つける」などという情緒的な話をしているのではない。
なんら客観的な根拠を提示することなく、
福島を「死の土地」だと決めつける乱暴さは、
無神経を通り越して「無責任」だと言わざるを得ないのである。
「匿名」氏は、
年間線量が何ミリシーベルト以上なら
回復不能の「死の土地」だと考えているのか。
1か5か、それとも10、20なのか…?
それとも、他になんらかの独自の基準をお持ちなのか?

いうまでもないことだが、
放射能が県境を尊重して拡散するなど笑い話にもならない。
福島県の会津地方より
東京23区の一部の地域の方が空間線量が高いのは知られた事実である。




写真はSAFECASTによる11月7日の線量調査の結果だが、
上が東京の足立区綾瀬付近。
下が福島県喜多方市の中心部の線量を現している。
黄色は毎時0.5μSvが観測された地点、緑は0.2μSvのところで、
どちらが高いかは一目瞭然だろう。
こうした現実があるのに、
なぜ「匿名」氏は乱暴にも「福島が死の土地」と言い放ち、
東京を「死の土地」とは表現しないのか。

「匿名」氏の真意がどうあれ、
こうした言説は、
「福島=放射能に汚染された土地」というレッテル貼りにしかならない。
そして、それは必然的に「福島に対する差別」を促進することになる。
福島に住む多くの人たちが
子や孫が、将来、結婚差別を受けるのではないかと心を痛めている。
予想される差別から逃れるために、
本籍地を「福島」から移す動きがあるとも聞く。
こうした無責任な言説が、
結果として差別を助長していくことにぼくは激しい怒りを禁じ得ない。

宮古の瓦礫を東京に運ぶことに伴う混乱劇にも同じ問題を感じる。
原発事故の直後、
放射性物質が海沿いに拡散しなかったことは実証されている。
岩手県宮古市の場合、
福島原発からの距離が東京より遠いこともあって、
はっきり云ってしまえば「放射能汚染は東京以下」の地域である。
放射能があろうがなかろうが
余所のゴミを引き受けるのは嫌だという住民感情は解らないでもない。
だが、そこに反対の理由として放射性物質の問題を持ち出すのは、
合理的な根拠のない闇雲な不安感にかられてのこととしか思えない。

「福島」だの「東北」だのというレッテルで判断すべきではない。
そして、放射能を「排除」の理由とすべきではない。
それを許すならば、
差別の対象はいつしか「日本」にまでエスカレートし、
ぼくたち自身が「差別される側」になるのは間違いないはずである。



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